韓国(ソウル)のマッコリおじさんの話

ソウルはハプチョン(합정)駅の付近、ボンベイサファイア近辺にて。
夜十一時頃、友人と食事を終えお店を出たところ、小さな交差点の向かいにリヤカーを引いた方が目に入った。

何やら3、4人の団体に向かって話しかけている。
話しているというより、何か一方的に捲し立てているように見えた。トラブルだろうか。団体は大学生だろうか、心なしか重心が後ろに向いている気がした。どこか困っているようで、その場から逃げたそうにしていた。

木製のリヤカーには白いボトルが所狭しと並んでいる。
軍手をはめたそのおじさんの、鈍色の服はボロボロだ。

遠目から明らかに分かる、危険人物。関わってはいけない人。

そう気持ちとは裏腹に、なぜか私は手を振っていた。
視界が広いのか、その瞬間首がこちらにグルリと周り、見事に「ロックオン」された。アニメのような速度でこちらに一直線。既に数秒前に話していた大学生であろう集団のことは頭から消え去っているように見えた。

そこから先、正直記憶が曖昧な部分がある。迫力に圧倒されていた。
もう笑うしかないほどの、「勢いのみ」のセールス。
飛び散る唾。見開いた瞳孔。恐ろしいほどのオーラ。

私達はマッコリを押し売りされた。1本3,000ウォン。
自然と距離を取り、カメラを構えるプロフォトグラファーの友人。気がつけば腕を捕まれていた。汗がびっちょりと濡れているが、お構いなしだ。
一枚だけの写真で、ここまで見事な写真写りとポージング。相当手慣れているように感じる。この右手のポージングは普通自然には出ないだろう。

有名な人なのだろう。これで有名でないわけがない。マッコリ・アジョシ(막걸리 아저씨)で調べてみると、たくさん出てきた。出会うと幸せが訪れる、人間に扮したマッコリの妖精さんらしい。

嫌な気持ちは全くしない。悪意の欠片も感じない。
もう一度会いたいかといえばそうでもない。元気で暮らしているといいなと思う。